密教2159 【心の御布施】

あれはまだ私がある地方で寺に奉職していた頃に、経験した事である。

その日もいつもの様に朝の御勤めを終え、その後は日常の作務を行い何事も無く終わる筈であった。

午後も三時を過ぎ後は、閉門の時を待つだけであった。
その時に現れたのが、あの少年である。

何時もはワンちゃんと一緒に、仲良く散歩を楽しんで居るおとなしい子であるが、今日は一人である。
その時の少年は何かを仕切りに耐えながら、何かを言いたそうなので、私から声を掛けたのである。

少年は眼にいっぱい涙を溜めながら、必死に涙が流れ落ちないように堪えて居る姿が健気で、つい少年の心の中を視ると悲しい筈である。

しかし少年本人の口から言う事が大切なので、敢えて聴いたのである。

少年は必死に、涙を堪えながら言った。

〇〇【ワンちゃん】が車に敷かれ死んで、幾ら眼を瞑らせ様としても眼を瞑ってくれない。

お母さんに聴いても、解らない。【その時お母さんが一言、お坊さんを頼めれば良いけど、家にはお坊さんを頼めるお金が無い】

でも少年の心は、眼を瞑ってくれない〇〇が可哀想で堪らないのです。
その時、少年はポケットからある物を出して、私に言ったのである。

此れで〇〇が、天国へ行ける様にして下さい【十円玉二枚】。

私は、少年に言った。

此処で待って居る様にと。

すぐさま支度を整え、少年の家に向かったのである。

少年の家に到着して、ワンちゃんの遺骸に対面した。

外傷は見られないが眼を見開き、外的に幾ら眼を閉じようとしても駄目であったが、少年とお母さんが用意したのであろう段ボール箱に毛布を敷き、お菓子とお花が添えられ親子の優しさに胸を打たれた私である。

【秘伝馬頭観音法】
上記の法についての詳細な解説は、模倣を避ける為に割愛するが霊験は凄まじい法である。

読経をはじめ一連の修法をした時、少年が声を上げた。

〇〇が、眼を閉じたと言い泣いて居る。

お母さんも涙を拭いながら、喜んで居る。　

私も、御役御免である。
その後の段取りも全て整え、ようやく親子に笑顔が戻った次第である。

正に、心の御布施でありました。

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※8月12日最終締め切り

南無大日大聖不動明王尊
蓮華合掌
金剛山赤不動明王院
院主　永作優三輝

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